No.4 子どもの行動の背景を探る

 私が学生時代に手元に置き,特に障がいのあるといわれる子供と関わるときに欠かさず読んでいた書籍の紹介です。「障碍児心理学ものがたり 小さな秩序系の記録Ⅰ(著者:中野尚彦)」という本です。著者の中野先生は一人ひとりの子供について,具体的に語ることのできる先生です。

この本の中から,私の好きなエピソードを一つ抜粋します。

 

 水遊びが好きな子がいて盛んに水遊びをする。毎日毎日,ホースで教室へ水をばらまいたりする。どうしていいか分からない。たまにある時,水場でコップにダーッと水を入れて,入れては捨て,入れては捨て,くり返し長い間やっていた。

彼は必ず水道栓をいっぱいにひねって出す。せめて少し出すようにしようなんて言っても駄目で,目いっぱいひねって入れて,捨てる。

 

みなさんは,どうされますか?

続きには,

 

彼の横に行って一緒にそれのまねをしてみた。

 

すると,

 

 その時きこえた。プツプツプツと泡の音が聞こえた。サイダーみたいな泡の音が消え消えに聞こえる。でもサイダーではない水道水だから瞬間のうちに消えてしまう。だから捨てなきゃいけない。栓を全開した勢いある水だからこそ泡が出る。分かった。これを聞いていたんだ,これをやっていたんだと思った。そして自分も一緒にやって「わー,きれいな音だね」と言った。そうしたら普段ほんとに視線を合わすことのない子どもが私の顔を見てくれた。

 

このエピソードの続きに,このようなことが語られています。

 

 こととしてはそれだけであるが,そのときに発見したことが今の私の子ども理解の出発点,ある一つの原型的なイメージになっている。子どものことを分かるというのは,こういうことなんだなと一瞬思った。子どもと過ごす中ではっとさせられるという事柄に出会うということ,それが自分の見方とか枠組みというものを大きく崩していくということがある。

 

 これは,当事者同士の話かもしれませんが,このようなエピソードを丹念に集めてみれば,そこに子どもたちの世界への入り口があるのだと思います。そして,障がいのあるなしに関わらず,目の前の子どもとどのように係わるか,そして,その係わりをドラマティックに語ることのできる人になりたいものです。